2016/02/18

民謡分類考 text by 俚謡山脈

インターネット、SNSなどで会ったことがない人々とコンタクトとったり、話し合うのが当たり前のこのご時勢。同じ単語でも違和感や、認識の違いを感じることがよくあります。今回は“民謡”についてSoi48から派生した民謡発掘ユニット俚謡山脈が町田佳聲が昭和45年に解説した分類を元にわかりやすくまとめてくれました。モーラム、タイ音楽にもつながる話。あなたはどのタイプの音楽が好きですか?




民謡分類考 text by 俚謡山脈

町田佳聲は民俗芸能S45年夏季号掲載の「座談会:民謡を考える」の中で、民謡を三つに分類している。

①俚謡(生活の中で唄われてきた労作唄)
②民謡(舞台や観客にアジャストする為①の形を整えたもの)
③民謡風の歌謡曲(②が当世風にアレンジされたもの)

俚謡山脈のMIX収録したり、クラブでプレイする「民謡」は殆どが②に分類されるものです。我々が好んで聴くのは①と②ですが、①はレコードという形で中々残っていませんし、クラブでプレイするにはプリミティブ過ぎる場合が多いのです。ちなみに①は日本民謡大観に収録されてるのが手頃にアクセス可能な音源でしょう。itunesストアでも買えます。
古いものほど素晴らしい、オリジナルである、とするならば②より①が良いのか?しかし個人的にはそうでもないです。①も②も同じく愛してます。何故なら労作唄は人の営みですが、舞台や観客の為に形を整えるのもまた人の営みで、両方に同じぐらい価値があると感じるからです。しかしこの②への愛って説明が難しい。

①に類するような音源はスミソニアン・フォークウェイズ、現在ではdust to digitalといった貴重音源をアーカイヴするレーベルから豪華な装丁に包まれてリリースされることも多く、熱心なファンが存在していることから分かる通り、まあ大多数とは言えませんが、一定の認知度を獲得している音楽の聴き方/志向と言えると思います。ブルースやゴスペルの古い音源を熱心に収集するような、ヴィンテージ志向とでも言いましょうか。
民謡/俚謡の魅力の根源はきっと①に入ってるのでしょう。その魅力を維持しつつ節回しを整えたり、伴奏を付けたりした民謡のオリジネイター達が②です。町田佳聲が②の代表的な存在として挙げているのは後藤桃水、成田雲竹、浅野梅若など。そしてハッキリと言っているのは②と③をしっかりと区別すべきであるということ。例として町田佳聲は津軽三味線の木田林正栄と三橋美智也の名を挙げ、次のように語っています。

(前略)津軽における木田林正栄とかは、同じ俗化でも、ローカルカラーをはっきりつかまえてるんですね。ところが東京あたりで三橋美智也君がうたったりするのは伴奏入りでね。ああいうものはやっぱり第三次のサービス産業に属する種類のものだ(後略)

※町田佳聲は対談中①②③を産業に例え、第一次/第二次/第三次産業と言っています

所謂現在「和物」の文脈で評価されている「民謡」は全て③に当たるものです。東京キューバンボーイズやジミー竹内が民謡を取り上げた類の音楽。民謡のメロディや節回しを取り上げて既存の洋楽に当てはめたようなものや、ジャズ/ラテン/ロックなどの洋楽に三味線や尺八といった和楽器を組み合わせたもの。ポップス化した音頭や演歌、舞踊歌謡なんかもこの範疇かと。町田佳聲の言う「ローカルカラーをはっきりつかまえて」いない音楽。

この分類は「なんでもありこそカッコ良い」という、陥りやすい価値観に一石を投じています。①②③それぞれにカッコ良さと愛すべき理由があるでしょう。しかし俚謡山脈的に「民謡」とは①と②のことを指していて③は含まれないし、民謡と一口に言っても色々あるぞ、というお話でした。昭和45年の時点で「民謡」「俚謡」の分類をハッキリと分かりやすく提示していた町田佳聲の偉大さも合わせて認識しておきたいですね。