2015/09/11

映画「バンコクナイツ」クランクイン直前トークショーご来場ありがとうございました。




映画「バンコクナイツ」クランクイン直前、トークショーご来場ありがとうございました。短い時間で詰め込んで話してしまいましたので要点を書いておきたいと思います。


・イサーンには(中央タイと異なる)独特の文化がある。

・イサーン地方にはモーラムという民謡がある。

・60s~80sのタイ音楽は7インチ文化。

今回僕らが話したかった要点はこの3つ。タイのニュースや本、音楽、映画、そして「バンコクナイツ」を観る際に中央タイ(バンコク)とイサーンの関係を是非意識して欲しいという事。“タイは微笑みの国”、“イサーン=貧困”という表向きの宣伝文句に惑わされてはならない!タイという楽園のイメージの奥底に潜む闇、問題を知ると、よりタイが面白くなる事間違いなし。

レコード、音楽、映画は60年代後半になると中央タイ人、イサーン人に向けと2つの市場に向けて製作されていくようになる。もちろん中央タイ用が主流ではあったが、イサーン人のマーケットも馬鹿にならなかった。それ以前は製作コストが高く、庶民がレコードを買えない時代だったが、70年代に入ると細分化されてイサーン人に向けたマーケットが拡大していく。

モーラムはイサーンを代表する音楽なのでイサーン人が聞く。したがってモーラムはイサーン人のために製作されている。これに対してタイ歌謡の巨大ジャンル、ルークトゥンは中央タイ人向けのルークトゥンとイサーン人向けのルークトゥンが存在する。イサーン人向けのルークトゥンをルークトゥン・イサーンと呼ぶ。ルークトゥン・イサーンはイサーン語で歌われる事が多く、イサーンを代表する楽器であるピン、ケーンが入っている事が多い。

今までワールドミュージック、タイ関係の書籍でルークトゥンが細分化されて語られてこなかった。これは書き手が中央タイ人であったり、バンコクで流通したソフトしか聞いていなかったり、7インチを掘っていないかった事が原因だと思う。タイのLP(アルバム)は7インチ(シングル)のベスト、編集盤である。もちろん例外もあるがほとんどの楽曲は7インチが存在する。つまり7インチでしか聞けない音源が圧倒的に多いのだ。バーンイエン・ラーケン、チャーイ・ムアンシン、ワイポット・ペットスパンほどの大物歌手でさえCD化されていない音源は山ほどある。

しかもプロデューサー、作詞・作曲者、バックバンドなど重要な情報は7インチにしか記載されていない場合が多い。それに対してLP、カセットテープ、CD(60~80年代の音楽の復刻版)には、ほとんど歌手以外の情報がないのが現実だ。復刻しているメジャー会社は音楽ソフトを流通しているだけのライセンス・ビジネスの場合が多い。つまり本当のレーベル、誰がどのように作って流通させたかは7インチでしかわからない。庶民に愛された7インチは貴重な資料なのである。特に70年代のイサーン音楽はカセットテープ、CDで再発されなかった為に7インチでしか聞けない曲が多い。

では7インチを集めればいいと考えると思うがハードルは高い。タイ音楽のレコードの大半はタイ文字で書かれているため文字が読めない。つまり歌手名とタイトルが判別できないのだ。これが当たり前だと思ってはならない。インドやインドネシア、マレーシアなどは英語表記なので歌手名、タイトルは読むことができるのだ。ここに植民地の名残を感じることができる。ちなみにタイは植民地になっていない。
そしてタイの7インチはジャケットが無いものが多い。上流階級向け音楽のルーク・クルン、伝統音楽、初期ルーク・トゥンにはジャケットがあるものがあるが、それ以外の大多数はジャケットが無い。7インチの90%以上はジャケット無しだ。当時のお金持ち向けに作られた音楽にはジャケットがあり、庶民向けのものには付いていないと覚えると良いだろう。レーベルロゴがラベルに入っただけのむき出しのレコードではエキゾ感が味わえない。ジャケット買いも楽しめない。タイのレコードを買いにきた外国人はジャケットのついたLPレコードから掘っていき、7インチまではなかなか掘り下げられなかった。

そんなイサーン音楽の細かい所にスポットライトが当たったのはDJ世代の外国人が7インチを掘り出してからである。DJ世代は踊れるかどうか、DJで使えるかどうかが問題だ。レゲエやクラブ・ミュージックのシングルに馴れているのでジャケットなど気にしない。DJやレコード・コレクターがイサーン音楽を掘り出して、再評価をしたのだ。

それでは70年代当時、大量にリリースされたイサーン音楽の7インチを買っていたのは誰か?答えは簡単、イサーン人だ。何故決して裕福とは言えないイサーン人相手に商売が成り立ったのか?この事は長くレコードを集めている僕らの疑問だった。当時の関係者にあたって調べていくと以下のような回答が得られた。

・ラジオ曲用
・ジュークボックス
・サウンドシステム
・無理して買った

この無理して買ったのがポイントで、イサーン人は娯楽に金を使うのだ。この時代の音楽制作に関わっていた関係者は、「彼らは欲しいと思ったら日給はたいてでも7インチ買っていた」、「イサーン人はエンターテイメントが大好きだから当たり前だよ」と口をそろえて言う。技術とマーケットが無く自国でレコード産業が育たなかったラオス、カセットの時代が来るまでSP盤しか作れなかったミャンマーと比べるとイサーン音楽の充実は一目瞭然だ。

映画も同様でイサーン人のマーケットに向けて製作された作品が多く存在した。しかし音楽同様しっかりと掘り下げられていないのが現状だ。きっと音楽同様、新しい価値観で再発される日が来るはずだ。

とざっくり説明してはみたものの、そのタイ音楽の魅力に気づくには浴びるように聞くのが早い。気になる方は是非Soi48が監修しているEM RECORDSからリリースされているタイ音楽シリーズやSoi48パーティーをチェックしてください。モーラムの魅力に中毒になって、「バンコクナイツ」が2倍楽しくなる事間違いなしです!

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モーラム:モーは達人、ラムは声調に抑揚をつけながら語る芸能。つまり“語りの達人”で、その歌手と芸能の両方をさす名称。モーラムは“歌”ではない。

ルークトゥン:タイの地方の音楽とロック、ラテン、インド、中国、日本、ハワイ等々の音楽を吸収して形成されたタイ独自のジャンルでありタイ歌謡のメインストリーム。通称「田舎者の歌」。60年代前半にその名ができた。

ルークトゥン・イサーン:イサーン人に向けて作られたルークトゥン。イサーン語で歌い、モーラムの要素を取り入れたり、イサーンの伝統楽器であるピン、ケーンが使われる場合が多い。