『ペット・ピン・トーン編 その①』
憧れの人とは距離を保ちたい、という人も多いだろうがレコードを探しているとその町の住人や、僕らの趣味に理解のあるイサーン人の友達が、レコードや音楽のある場所、スターの家まで導いてくれる。タイの芸能人と庶民の距離感は日本と比べるとかなり近いもので(日本で演歌歌手を探しに田舎に行った経験は無いが・・・)、日本では考えられないほど簡単に出会えたりする。
そしてある時、導かれるようにペット・ピン・トーンの座長、ノッパドル・ドゥアンポンの家に辿り着いた。
今回の訪問は2回目。70~80年代に活躍したモーラム一座であるペット・ピン・トーン。数々のスター歌手が在籍し、レコードのラベルを隠しても一聴してわかる土っぽい独特の音質。トーンサイ・タップタノンのエレキピンによるグルーブは唯一無二の存在だ。ノッパドルは、その座長にして俳優業やタレント業もこなす、イサーンの誰もが知る大スターである。
憧れの大スターの家族構成、趣味、車、生活スタイル・・・音楽と同じくらい気になる事が沢山ある。特に食べ物には興味があるのだが、今回は運がいいことに夕食をご馳走になることができた。
食事時になるとノッパドル家族の他に、どのような血縁関係があるのかわからない子供達が次々と増えて10人程となった。カイジョウムーサップ(タイ風揚げオムレツ)、スップノーマイ(タケノコの煮物)、ナンプリック・プラー(焼魚と生野菜と唐辛子ディップ)などが並ぶ。お米はカオニャオ(モチ米)ではなくカオスアイ(ウルチ米)だ。ゲストが来たと言う事でイサーンらしい料理をと食べさせたいと言う事で娘達がソムタムをその場でたたいて作ってくれた。日常的に食べているかはわからない。どの料理もイサーンにしては辛さは抑えめで上品な薄味。バンコクの上品な中華系タイ料理とも違う味付けに驚きながら、ペロリと食べてしまった。
満腹になると、僕らと入れ替わるように子供たちが食事をはじめる。まるで相撲部屋の食事風景だ。僕らはTVの前に移動してフルーツを食べながら昔のペット・ピン・トーンのDVDを観せてもらった。ノッパドルは、何百回も観たであろう自分の映像のギャグに爆笑しながら、いろいろなことを丁寧に解説してくれた。
舞台構成の話や、振り付けの考え方、日本の事、海外公演の話、イサーンの事。特に出演していた歌手の現在の話をするときは
「あいつも死んでしまった、こいつは今下半身不随、こいつは入院中・・・俺は酒も煙草やらないから元気だろ?だから俺とトーンサイは今でも健康なんだよだよ。ガハハハ」
と、力こぶを自慢げに見せて力強く語ってくれた。
尊敬する歌手の病気話に複雑な気分になったがノッパドルの元気の良さは微笑ましい。
そして突然
「お前らまだ独身なら俺の孫と結婚しろ」
と結婚まで勧められてしまった。娘の婚期を心配する堅気のおじいちゃんでもある。
あっというまに2時間程経過した。
「さぁ、スタジオに行くぞ!」
と、今度は自宅の一角にあるスタジオを案内して、一曲披露してくれた。その感動話は別の機会に紹介することにしよう。