2013/05/21

SOI48 VOl.6 PLAY LIST ①

辺境、謎な音楽、アジアもの・・・という大まかなジャンルからより深く、読者に欧米の音楽同様、歌手、曲、レコード単位で知って欲しいと言うのが適当イベントSOI48の唯一のコンセプト。VOL.6のイベントでレバノンレコードを中心に素晴らしいプレイをしてくれたTAKUMI SAITOさんに3曲解説してもらいました。


TAKUMI SAITO

アラブ音楽に関しては新参者なのにおこがましいのですが、非歌謡系の有名どころを少し自分の勉強も兼ねてご紹介。 かつてフランス領で中東のパリと呼ばれたベイルートを首都に、地中海に面しシリアとイスラエルに囲まれ、国内のキリスト教マロン派、イスラム教シーア派、スンニ派、PLOやヒズボラとのバランスや、隣国シリア軍、イスラエル軍、イラン軍等に翻弄されてきた多民族多宗教な小国レバノン。

エジプトと並ぶ現代の音楽的繁栄ももちろんですが、内戦で激しく揺れていた70年代中盤から80年代にも国内外で素晴らしいレコードが残されているという事実がかの地の音楽的豊潤さを物語っていて驚きます。これまで手にしたレコード以外にも、パレスチナの英雄的作曲家がいたり遊牧ベドウィン系の流れがあったりアラブ世界のスターも多く美女系ベリーダンス盤が多数残っていたりSEA-DERSなどガレージバンドも結構いたりして、とまだまだ興味は尽きません。

それと他人事になりがちですがただの音楽好きだとしてもシリア情勢にも目を向けていなければ、と思います。OMAR SOULEYMAN氏は無事なのか、とか、個人的心配の部分でも。


 

 ・Elias Rahbani - From The Moon 

レバノンもので避けて通れないRAHBANI BROTHERSの三男、ELIAS RAHBANIの78年12"B面、スペース・エイジなNWサイケ。ESGの"UFO"に近いなんてコメントもあるのであまりレバノンらしくは無いのですが、ファズ好き・ムーグ好き・変調声好きにはたまりません。RAHBANI BROTHERSは、アラブの歌姫FAIRUZや悲劇のギター/ウード奏者OMAR KHORSHIDなどスターへの曲提供でも知られ、現代にもDNAが脈々と受け継がれるレバノンの一大作曲家集団家系。長男ASSI RAHBANIはのちにそのFAIRUZことNOUHAD WADI HADDADと結婚しています。旧宗主国フランスを通じて西洋音楽を取り入れまくった革新的兄弟の作品群は、辺境好きにはちょっと味付けが薄いのかもしれませんが伝統音楽あり民俗オペレッタありソフトロックありエレポップありでどれもハズレなしです。

ちなみにこの曲はオランダの極小辺境レーベルGREY PASTからのコンピレーション"WAKING UP SCHEHERAZADE"にも別ヴァージョンで収録。A面はDJ HARVEY、PRINS THOMASプレイらしいディスコ・アンセム"LIZA... LIZA"です。



   

・Raja Zahr - Drum Sequence 

不穏なシンセも操るオリエンタル・ジャズ・ダブケ・ダルブッカ・パーカッショニストがUS渡航中の80年に残したもっとも有名な自主制作盤のもっとも有名な一曲。ムーグ・ファンクというかコズミック・ディスコというか、他で聴いたこともない強烈な飛び道具は、辺境とか中東音楽というよりも全実験音楽好きに聴いて欲しいくらいのアヴァンギャルドな奇形ジャズ。個人的にはレバノンのOKAY TEMIZでROGER ROGERでJOE MEEKでMANI NEUMEIERなイメージです。この曲ではないのですが超絶ドラミング・ライヴを↑。この人の手首どうなってんの。。生で観たすぎます。実はSUBLIME FREQUENCIES/SUN CITY GIRLSのBISHOP兄弟もハーフ・レバニーズだったりと、アメリカには内戦から逃れたレバノン移民コミュニティが多数あったようで、この時期RAJA氏は南カリフォルニアを拠点に各地のベリーダンサーのバックを務めていたりしたようです。演奏も収めたベリーダンス・ビデオもいくつか出ていたよう。この盤で踊っていたグループもいた、、んでしょうね。ちなみにジャケ色違いのセカンド・プレスはレバノン盤に定番のVOIX DE L'ORIENT (EMI傘下/レバノン制作/ギリシャ・プレス) シリーズで本国リリースもされています。 




・奥斯上下電子琴音楽 第18集台湾山地音楽 - 山地情歌

唐突に台湾山岳民俗音楽、76年の電化盤。DJ4枚目くらいに混ぜました。「上下」は峠のつくりに近い一字、「楽」は略字の方が原字です。英訳すると"OSCAR ELECTRIC SYNTH MUSIC"なシンセサイズド民俗音楽・歌謡曲シリーズ、個人的な認識範囲では第47集まで存在が確認されていますが、なぜだかこれだけが日本のコレクター諸氏にもよく知られているらしい第18集。

第11集では我らがちあきなおみの「喝采」も電化されているよう。でなぜか台湾の山岳部
とアフリカのサバンナがコラージュされた異空間ジャケの本作。みなさん「キリン・ジャケ」と呼ばれていましたが、もちろん台湾にはキリンは生息しておらず、麒麟ホテルしかありません。さらに意外に謎の一枚というわけでもなく「奥斯上下=オスカー」はLIFE RECORDSのお抱えスタジオ・バンドOSCAR & HIS ORCHESTRAのことで、"PLAYS DISCO HITS"、"PLAYS WESTERN HITS"など大衆迎合的な売れ線消費型レコードも多く残しています。とはいえこちらの盤はCREA SOUNDやMONTPARNASSE 2000辺りの70'Sフレンチ・ライブラリー・レーベルに残されていてもおかしくは無い実験電子音系スロウ・グルーヴがてんこもり。中華メロディを中東に挟んでみたもののあまり違和感が無かったのは、元々の録音を拝借されたと思しき台湾の原住民が言語学的にはマレー・ポリネシア語族だったりするからでしょうか。確かにアジアン・ナイヤビンギと言えなくもないです。

ちなみに中華盤を掘っているとよく出るLIFE (麗風/楽風) RECORDSは、戦後まもなくの1940年代にマレーシアで興り、6-70年代にはテレサ・テンやサイ・ミーミーのヒット等で拡大しながら新加坡や香港、台湾へと拡大、いつの間にやら中華圏一帯をおさめ現在でも強固な地位を築いている大レコード会社です。実は現地でCD化、されているようです。